雪晴れの小枝の先が
キラッと光る。
次第に数を増して
梅の枝にも屋根の瓦も
川原の石の上や水面にも
一体にキラッキラッが見え始めると
春が来る。
 正体は薄い透明な羽をつけた
 妖精なのだが大きいものでも
 子猫の目の大きさで
 はじめはきちんと並んで高い小枝に
 腰を下ろしているが、やがて
 てんでに遊びまわる。
こないだも梅の花がだまされて
三分の花を咲かせたところで
ぶり返しの雪が降ってしかめっ面。
やさしく扉をノックしてください
うれしい気持ちでそっとノック
してみてください。
 悲しみに沈んだ時は迷わず
 小さくドアをたたいて下さい。
 とんな小さな音ものがさず
 隙間を開いて待ちます。
心のドアは鍵をかけずに
開いてあります。
                 
北からの風はまだ冷たくて
電線を鳴らして吹き抜けたりするが
ぼくは春との対話をしていた。
 背丈ほどもある南向きの田んぼの
 土手を背にして座ると
 そこはかっこうの風よけで
 やわらかな陽ざしは満ち溢れ
 かすかな草萌えの香りがした。
学校帰りのランドセルから
習ったばかりのハーモニカを吹く。
やさしく眠れ
しずかに眠れ。
心の中にさわやかな風が
        すぎれば
わが愛しき女は
 ゆるやかに眼をひらき
  やがて春の野に出で
テントウムシの
     羽をさする。
   
白くやわらかな
胸のふくよかな温もりは
時の流れをゆるやかにし
あたかも天は星明り
 五感の全ては君に感応し
 叙情の風は静かに流れ
 うすき揺れに染まる胸に
 顔をうずめる。
 こんとんの原子宇宙の
 ただ中を被膜に
 包まれたままの赤子
かすかな明かりの中で瞳は輝き
黒髪は揺れる。
あたかも天は星明り
言葉の要らない瞳が語る時
また、静かな時が訪れる。
 ぼくは目を伏せ君の唇をすう。
   
幼い頃、若葉の季節になると
何かしら甘い香りがしていた。
おたまじゃくしをとりに田んぼの片隅に
腰を下ろした時もそうだ。
小川でハヤを見つけて勇んで
釣り糸を垂らしたときもそうだった。
毎年5月のころになると
ほのかに甘いのだ。
それでも別に気にもかけず今までいた。
発見したのだ。
白く垂れて房に咲きほこる
野バラの芳香だ。
幼い想い出が香りに乗ってめぐる。
   
せっかくの待ちに待っていた
秋が来たのに
もっと思い通りに一杯の
花をつければいいのに
土手の陽だまりで野菊の花が
さらさらの風に吹かれて
五つか六つの花をつけただけで
少しだけ誇らし気に
はにかむ様に咲いていたんだ
淋しそうに笑顔をつくって
           

 



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